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神戸電鉄車内乗客AB談! プロローグ

- Kobe Railway A&B Stories Prologue -

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< 忠 告 >

この物語はノンフィクションであり、実在する人物・団体などと大いに関係があります。


 電車通学で学校に通う俺にとって、神戸電鉄は無くてはならない存在である。学校への
足としてお世話になっている神鉄には頭が上がらない。
 まぁ確かに、運賃が高いだの、(鈴蘭台と朝のラッシュ時間帯等を除いて)1時間に4
本しか電車が来ないだの、不満を言い出すと結構出てくるが、学生定期の破壊力抜群の安
さの前には、文句を垂らすことも出来まい。それに何だかんだ言って俺は神鉄が好きだ。
小さい頃には、しばしば隣町に出かける時とかは、ピヨピヨ鳴る改札を背に母親に連れら
れてホームへと向かったものだ。
 そんな思い出もある、神鉄の4両編成の先頭車両に揺られながら、俺は今日も学校へ向
かっていた。
 電車通学になってから1年が過ぎ、始め頃は新鮮だった窓からの景色も、いい加減飽き
てきた。いや、本当に何の変化も無いのだ。確かに「あ、昨日はビルの3階にあった広告
が5階に移っているなー」とか、「昨日は無かったパチンコ店があんな所にいきなり出来
ているなー」とか、絶対にあり得ない。1日にそんな事が出来るわけがない。
 しかし、そうとは分かっていても、学校がある日には毎日変わらない景色を眺め続けて
いると退屈してくるものだ。携帯をいじろうかと思っても、車内に流れている『1番前の
車両では携帯電話の電源をお切りください。その他の車両ではマナーモードに設定の上、
通話は……』というアナウンスに引け目を感じる。ならば2両目行けば良いじゃないか、
と思った事もあったが、新開地での乗り換え時にあまり余裕の無い通学プランの事を考え
ると、やはり次の日には先頭車両に揺られている自分がいる。
いやー、それにしても退屈だ。同じ駅から通学する友達とかがいれば話し相手がいて良か
ったりするのだが、生憎ゼロである。神鉄で通学している知り合いはいるのだが、なかな
か時間が一緒にならない。
 神鉄も何かサービスしてくれたら良いのになぁ、車内でクラッシックとか流して欲しい
なぁ、などと無茶な望みを心の中で神鉄に突きつけていると、何やら後ろから話し声が聞
こえて来た。
 車内は静かで、線路とタイヤから発せられる、ガタンゴトン……ガタンゴトン……とい
う音が聞こえてくる程度。本気で頑張れば聞き取れそうな気もするが、残念ながら朝っぱ
らからそんな集中力は持ち合わせていない。俺は何気なく左後方……つまり声の聞こえた
方を向いてみた。
 そこには、扉に体重を預けた二人の女子中学生らしき人物が、会話を交わしている姿が
あった。
 俺はしばらくその二人組から目が離せなかった。恐らく制服であろうセーラー服をそつ
なく着こなして、膝もとが隠れるくらいの丈の長いスカートをはいた二人組の少女。一見
何処にでもいそうな、ごくごく普通の女子中学生に見えるのだが———


———二人とも、めっちゃ可愛かった。


 両者共に中の上から上の下クラス。今まで俺の歩んできた人生の中で目撃した前例がほ
とんど無い稀少レベルだ。
 一方は、純粋に、ストレートに可愛い。くりっとした瞳に、少しだけ茶髪が混ざったシ
ョートカットだ。
 他方は、恐らくもう一人と同い年なのであろうと予測できるが(胸元につけているバ
ッジの色が、共に橙色なのだ)大人びた雰囲気を持っており、彼女の黒のロングヘアーは
遠目から見ても艶やかだ。
 なんというか、ショートカットの方は猫耳をつけて「にゃんにゃん」とか言わせれば、
百人に百人(男)が大量出血(鼻)で卒倒しそうだし、ロングの方はクールな感じで凄く
格好いい。クーデレ×委員長属性の……って俺は何を言ってるんだろうね。
 ともかく、これは緊急事態である。こんな美少女二人と同じ車両に乗れる事なんて滅多
に無い。大慌てで心のシャッターを切った俺は、あまりじろじろ見ていると気づかれる危
険があるので、彼女達を背にする窓の方へ向き直った。
 しばし外の景色を見て休憩。少々高鳴っている鼓動を落ち着かせる。そこで俺はふと疑
問に思った。
 今までなんで二人の存在に気づかなかったのだろう?頭の上にはてなマークが浮かぶ。
今までこの時間帯に電車に乗った事がない、というのは考えられない。確かに、俺は毎日
電車に乗る時間にバラつきがあるが、それでも十回に三回は通勤ラッシュ前のこの時間帯
に電車に乗っているだろう。向こうも、乗っている電車の時間に多少バラつきがあったと
しても、今まで俺と一度もエンカウントしなかったというのは不自然だ。
 だとすると……考えられるのは、意識的に外の景色に目を向けようとしていた為に、全
く乗客の様子に関心が無かった、ということか……!?
 俺は頭を抱える。もし、一日一度で良いから車内をぐるりと見渡しておけば、もっと早
くに出会えていた……というか、見つけることが出来ていたかもしれないじゃないか!畜
生!俺のバカ野郎!
 俺は最高に地団駄を踏みたい気持ちになったが、ここが公共の場であることを自分に言
い聞かせ、必死にその衝動をこらえる。
 しかし、そうこうしていると残酷にも『次は、終着。新開地……』とかいう車内アナウ
ンスが耳に入ってきた。くそぅ、もう時間切れかよ!
 しばらくためらったが、最後に一目拝もうともう一度左後方を振り返ってみたが、既に
扉は開いており、車内から人の波がどんどんと押し出されていた。
 結局見れませんでしたよ、はい。
 俺は項垂れながらトボトボとその波に乗った。自然と新開地のホームに押し出される。
暗澹たる気持ちになった俺をこれから待ち受けるのは、いつもと変わらない退屈な学校生
活だ。ふと思ったのだが、学生って、授業やら講座やらのオンパレードである学校にいる
時間が、ぶっちゃけ一日の三分の一。
 これから、あと四年以上もこんな日常の繰り返しだと思うと非常にダルくなるのだが、
まぁ体育祭や文化祭とかが気晴らしになれば良いか、と自己完結に持っていく作業を次に
乗る電車の待つプラットホームに向かって歩きつつ、俺は実行した。


 そしてこの時。  
 この日の朝の、言葉を交わすことすらなかった、目が合うことすらなかったほんの一瞬
の出会いが、これからも長く続く学生生活を通じての、一生忘れる事のないであろう大き
な思い出の一つの序章プロローグとなることを———

———俺はまだ知る由もなかった。

[神戸電鉄車内乗客AB談! プロローグ 終]