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神戸電鉄車内乗客AB談! エピローグ

- Kobe Railway A&B Stories Epilogue -

 車窓越しに照りつける太陽の光が眩しい。俺は目の前に手をかざして影を作った。

 最後にABの姿を見てからもう一年半が経った。高校一年になった俺は、全員が強制的に受講させられる夏期講座に出席するべく、神戸電鉄の先頭車両に揺られていた。

 いや、それにしてもびっくりした。最初は『あれ?しばらく見ていないな?』くらいの感覚だったのが、二人に会えないまま時間が経つにつれて、次第に焦りを感じていた自分がいた。何度もAB談を聞くために早めの電車に乗ったが、彼女達の姿は無かった。次の日も、その次の日も、なかった。

 今まで当たり前だったことが突然無くなる。これは想像以上につらい事だった。心にポッカリと大きな穴が開いた感覚だった。

 考えに考えた俺は、一つの結論に達した。

 『ひょっとしたら、タメ年と思い込んでいた彼女達は、1つ上の先輩だったのでは?』

 『そして、俺が中学三年に進学した時、二人は高校生になり、学校が変わった事によって神鉄をもう使わなくなったのでは?』

 冷静に考えてみれば、年齢を特定出来るような情報はなかったし、つまり彼女達が当時俺と同じ中二だったという根拠もなかった。

 本編では描かなかったが、実は修学旅行の話なんかも出てきていた。これは、彼女達が当時中三だったということを意味していたのではないだろうか?


 脳内を飛び交う根拠の無い憶測。

 脳内を巡る漠然とした妄想。


 終わりの無いループに嫌気がさす。彼女達のことを考えた所で、もうこれ以上得られるものはないし、ましてやこの場に二人が現れるわけでもない。でも、朝電車に乗ると、必ず考えてしまう自分がいる。

 俺の中で、二人の存在は実は相当大きかった。中学二年のあの頃……具体的に言うなら九月〜十月頃だろうか。成績は低迷し、担任ともめ、両親と喧嘩しと、俺の心は荒れていた。正直学校に行くのが辛かったし、全てが嫌になっていた。実はそういう時期だった。

 でも、神戸電鉄の先頭車両で、本当に楽しそうに話をしている二人を見ていると、元気が出た。違う。元気がもらえた。

 もしも彼女達と出会っていなければ、どうなっていたのだろう。仮定の話なので具体的な想像は出来ないが、そのときの俺の精神状態を考えると、少しだけ怖くなった。

 俺は、二人に感謝している。本当に感謝している。まぁ自分でも変だと思うよ。名前も知らない二人の少女に感謝してるなんて。多分、向こうは俺の事なんて記憶の一片にすら残っていないだろうけど。


 でも、俺は残したかった。


 先の見えない暗闇の中を彷徨っていた俺に、元の世界に戻る一筋の光を照らしてくれた彼女達のAB談を。

 俺は、この小説を書く決意を改めて固めた。前々から一つの案としては挙がっていたのだが、実際に執筆に踏み出す所までには至っていなかった。自分の技量でAB談の魅力や面白さを伝える事が、表現する事が出来るかどうか自信が無かった。


 しかし、俺は決めた。


 彼女達のAB談を原稿に書き落とし、永遠に残そうと。

 これを書いている今、俺の記憶には彼女達のAB談は鮮明に残っている。だが、記憶なんてものはいつ消えてもおかしくない脆く儚いものだ。

 文章に綴ることで、絶対に消えることなく確実な形として永遠に残せる。そう思った。

 そして最後に、この場を借りてありがとうを言いたい。俺に光をくれた二人の天使に。


 いくら感謝しても足りません。あなた達との出会い……というかソウグウは、僕の人生の一つの大きな転機となりました。本当に、本当にありがとう。


             *            *             


 そして今、この瞬間も。

 きっと、日本のどこかで。

 二人の少女による最高のAB談が繰り広げられていることを———





 ——俺は心の底から切に願っている。

[神戸電鉄車内乗客AB談! 完]