
神戸電鉄車内乗客AB談! 第2話
- Kobe Railway A&B Stories No.2 -

【英検、全勘選択のスゝメ】
神戸電鉄の先頭車両に乗り、いつもと変わらぬ終点へ向かう列車に揺られながら、俺はニヤついていた。
いや、周りから見たらただの変人にしか見えないというのは十二分に分かっている。だけどだけど、ゆるんだ頬が締まらないのだから仕方ないではないか。
今日はあえて少し遅めの電車に乗ってみた。かつて五度の接触……というか目撃を果たした『例の二人組』は、いつもそこまで早い時間の列車には乗っていなかった。そのエンカウント率も踏まえて、今日の通学時間をチョイスしてみたのだ。
五度、というのはプロローグと第一話で描いた内容以外にも、あと三度、目撃&傍聴をしているのである。この作品で紹介するのは厳選された話、と考えてもらって大過ない。
ふと思ったのだが、一体全体、彼女達はどこの学校なのだろうか?制服は全く見たことが無いわけではないのだが、ピンと来ないのである。
まぁ、こんな事を考えていてもしょうがない。俺は六時の方角で繰り広げられている会話の傍聴に集中する事にした。
* *
A「ねぇねぇ、私、今度英検受けることにしたんだ」
B「あぁ、実用英語技能検定ね」
——略さず言う人、始めてみたな。
A「え!?そういう正式名称的なのがあったの?」
B「そうだよ。ちなみにバイトはアルバイト」
——いや、その二つ結構遠いから。"ちなみに"の守備範囲外だから。
A「それは知ってるよ〜。でね、その過去問を解いてみたんだけど案外難しくて……」
B「で、苦戦していると」
A「うん、一発で合格したいんだけどなぁ……ちょっと怪しいかも」
——何級だろ?ちなみに俺は四級だぜ。(※平成十九年六月現在)
B「まぁ頑張って。私は今回受けないから他人事になるけど」
A「が、頑張る!」
——頑張れ!応援してるぞ!
B「あ、そうだ。実用英語技能検定といえば使える裏ワザが結構あるよ」
A「裏ワザ?」
B「うん、これを駆使したら勘でも合格できるよ」
——ちょ、ちょっと待て。Aに何を吹き込もうとしてるのだBよ。
A「へぇ〜、どんなの?」
B「まず、過去問とかを見てると、大体2パターンなの。つながってるか、2つずつのかたまりか」
A「ほぇ?」
B「1つ目のつながってるっていうのは、答えが問1は(2)、問2は(3)、問3は(2)、問4は(1)、問5は(2)ってなった時、マークシートに書いたらつながってるでしょ?」
A「あ、本当だね!」
B「こういう風に、つながっていくパターンが結構多いの。実用英語技能検定って」
——どうしても略さずに言いたいみたいだな。
A「でも……どうしてかな?」
B「採点しやすいからに決まってるじゃん」
——いや、マークシートは機械通すから。採点しやすいとか関係ないから。
A「なるほど!で、2つずつって?」
B「問1が(2)、問2が(2)、問3は(4)、問4は(4)、問5は(1)、みたいな感じで2つずつかたまりになってる事も多いの」
A「じゃぁ分かる所をとりあえず書いて、あとは空欄をつなげるだけだね!」
——ダメだ!絶対やっちゃダメだ!信憑性ゼロだぁ!
B「そう、さっすが分かりが早いね」
A「なるほどなぁ」
B「あとは会場の雰囲気を読むとかね」
A「えっと……どういうこと?」
B「ほら、リスニングとかさ。どっかの教室が会場になってたりする時って、結構周りの人と近かったりするでしょ?」
A「うん」
B「次の対話を聞き、この後に続く受け答えとして最も適しているものを選べ、的な問題の時って大体は周りの筆記具の音が重なったところが正解だよ」
——もはやインチキじゃねーか!
A「えっ?筆記具が重なる?」
——筆記具じゃない!そこから発せられる音だよ!マークする時に出る独特な音だよ!
B「だから”シャー”ってマークする音が重なったら、大体はそれが答え」
A「なるほど、空気を読むわけだね」
——使い方が違う!「空気を読む」の使い方が違う!
B「KYだね」
A「”空気読もうか”みたいな」
B「あっ!……っと、MK5ってどういう意味だっけ?」
A「”マジでキレる5秒前”か”マジで恋する5秒前”だった気がするけど?」
——そうそう、俺もそう思う。
B「そかそか。じゃあ問題。コレは簡単だと思うよ。JCは?」
A「えっと……」
B「ヒントは私達っ!」
A「えと、”ジャンクション”?」
——Bのヒント無視してんじゃねーよ!しかもそれJCTだろうが!
B「う〜ん……KY語って難しいよね」
——Bの声に哀れみが含まれているように感じるのは、俺の気のせいだろうか。
A「この前本屋で『KY語辞典』っていうのが売ってあったよ」
B「えっ?マジで!?今度買おうかな」
A「じゃあ、買ったら私にも見せてね!徹夜で読んで次の日には返すから」
——おい、英検の勉強はどうした。
B「りょーかい。あ、そういえば次に受ける級って、もしかして面接あるの?」
A「うん、二次試験にね」
——なん……だとっ!という事は三級以上じゃないか!A賢いじゃないか!
B「面接かぁ……」
——少し考え込むB。どうしたんだろ?
B「面接にはさっきみたいなインチキは通用しないからねぇ……」
——自分でインチキって認識してんじゃねーか!
A「でもでも、聞かれることって大体決まってるみたいだよ?問題集見る限りは」
B「まぁ、アレだね。面接官が男だったら笑顔で切り抜けられそうだけどね」
——……確かに。否定は出来ないかも。仮に俺が面接官だったら即合格判定だな。
A「そうなの?」
B「うん、絶対いけるって!120%の確率で!」
——いや、そんな自信満々に言うなよ。
A「アティチュードは満点欲しいなぁ」
——えっと……面接をするにあたっての態度だっけ?たしか3点満点だった気がする。
B「えっと……面接を受ける人の容姿だっけ?」
——それは絶対に違う!
A「へぇ、そうなの?」
——おいA!意味も分からず『満点欲しいなぁ』とか言ってたのかよ!
B「うん、問題集か何かに”容姿点”って日本語で書いてたと思うよ」
——どんな問題集だよ。ってか”容態点”を見間違えしたんじゃないのか?
A「あれ?なんで問題集持ってるの?」
B「この前立ち読みしただけ。実用英語技能検定って結構使えるからね」
——どうしても略さず言いたいらしいな。(2回目)
A「勉強熱心だねっ」
B「いやいや……先生が『将来、大学受験で使えるから取ってて損は無いぞ』って言ってたのをふと思い出してね」
——それで本屋で立ち読みか……確かにAの言うとおり、Bは勉強熱心かもな。知識はスゲーうろ覚えだけど。
A「よし、私も頑張ろっと」
B「私は2年後とかに二級だけ受ける。一発合格できたら受験料も一回ぽっきりだしね」
A「なるほど。確かにそうかもだね」
B「まぁ、せっかく勉強してるんだし、絶対合格しなよ?頑張れっ」
A「うん!」
* *
車内に流れるアナウンスによると、もうすぐ新開地らしい。湊川を出ているからあと一分もかからないだろう。
二人の声が聞こえなくなってしばらくすると、俺が背中を向ける扉が開いた。
下車しようと扉の方へ向いたときには、もう二人の姿はなかった。
* *
————数ヵ月後。車内のAB談にて。
A「この前の英検、合格したよ!」
B「おぉぉ!すごいじゃん!おめでとう!」
A「大体の質問にきちんと答えられてたみたいだし、アティチュードも満点だったよ!」
——A、おめでとう!!三級か、凄いなぁ……
B「容姿点が?さすがだね!」
——そしてB、アンタは一度きちんと問題集を買って、勉強し直すことをお勧めするぞ。
[神戸電鉄車内乗客AB談! 第2話 終]