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神戸電鉄車内乗客AB談! 第3話

- Kobe Railway A&B Stories No.3 -

【とりあえず『ED・ER』をつけよ】


 そろそろ二学期の中間試験の時期がやってきた。最近ちらほらと、赤く染まり始めた葉っぱを車窓から見ることが多くなった気がする。

 今年の夏休みにあったイベントといえば、部活の先輩や後輩とカラオケに行って、友達の家に日帰りで遊びに行った事くらいで、あとはほとんど家の中に引きこもっていた。我ながら寂しい奴だなぁと思わなくもないのだが、両親から「今年の夏くらいは家にこもって真面目に勉強しろ」と言われた手前、ほいほい外に出るわけにもいかなかったのだ。

 まぁ確かに、この前の模試の成績はひどかったから仕方ないか、とは思う。もしも自分が父親になった時、息子(あるいは娘)から英数国三科目総合の偏差値が40切りかけている模試の成績を見せられたら、そう言いたくもなるだろう。

 さて、今日も俺の後ろでは恒例のAB談が繰り広げられている。最近Bが黒髪ロングのストレートからポニーテールに変えたのだが、これが反則級に似合っているのだ。

 Aの方は変わらずショートなのだが、彼女にはぴったりだと思う。ロングが見てみたい気もするが、やっぱりAにはショートの方が良さそうだ。

 といってもまぁ、彼女達の姿を直接視界に入れるのは乗車する僅かな間くらいで、扉が閉まって電車が動き出したら背中を向けるから、完璧100%テストに出ても満点とれるくらいに二人の容姿を暗記しているわけでもないのだが。

 なんで背を向けるかって?そりゃ視界に常に入った方が良いに越した事はないが、(目の保養とか目の保養とか目の保ry)そうしてたら向こうが視線に気づいて目が合う可能性があるし、もしそんなことになろうものなら自分でも情けなくなる程狼狽すること必至だからな。

 さてさて、それでは今日もAB談を拝聴するとしましょうか。


             *            *             


B「うわぁ~もうすぐ中間試験だね」

A「そうだね。やばいなぁ、今回は特に英語とかが」

――学生なら誰でもこの時期になると憂鬱になるよね、うん。

B「私は数学かな。場合の数っていうんだっけ?あれ。PとかCとか」

A「うんうん、あるある」

B「どっち使っても良い気がするんだけどなぁ……っていうか、あのビックリなに?」

――「!」は階乗の記号かな。俺も少し前にかじったから、少しなら分かる。

A「あれだね、”5ビックリ”で5から1までの整数を順番に……」

――かける。

A「……えっと、足していくやつだよね?」

――少ないって。5!=15は少なすぎるって。

B「あー、それそれ」

――普通に肯定してんじゃねーよ!

A「塗り分けとか難しいよね」

B「あ~分かるかも」

A「隣り合った場所には同じ色は入れちゃいけないっていう条件がややこしい……」

B「多分、赤と白が隣り合ったら、混ざってピンクになるからでしょ」

――むしろ、そっちの方が余計ややこしくなるだろ。

A「数学はまだ何とかなりそうなんだけど、さっきも言ったみたいに英語がね……」

――いや、なんとかなりそうもないって。階乗足してるようじゃ。

B「今までの総復習だもんね。比較とか?」

A「うんうんっ」

B「まぁ比較は極論言っちゃうとASつけて原級にしとけば大体良い線いくけどね」

――なんというアバウトさ。

A「比較級と最上級も、難しくないけど簡単じゃないからな……」

――Aが随分と思い悩んでおられる。

B「ま、とりあえずERつけときゃ大丈夫っしょ」

――かっる!考え方、軽!真剣に悩んでる人に対してそれはないだろ!

A「え!?でもでも、最上級ってEST使うんじゃなかったっけ……?」

――Aからもっともなツッコミ。基礎は分かっていらっしゃる様子ですな。

B「まぁ6:4くらいで比較級のエンカウント率の方が高いから、山張るなら絶対にERの方がお勧めだよ」

――いや、山張るって断言してんじゃねーよ!あと、絶対根拠無いだろ、その比率!

A「う~ん……そんなもんなのかなぁ?」

B「うん(即答)」

――その『アタイの計算にゃあ寸分の狂いもありやせんぜ』的な自信はどこから来た!

A「じゃあ、比較級はそれで何とかなるとしてね……」

――ならない。絶対にならない。

A「私としては、受動態も少し怖いの」

――あぁ、あの単元は簡単そうで難しいからね。

B「えっと、卵が彼女に食べられるやつ?」

――どんな認識のしかただよ。確かに基本的な例文でよく出てくるけどさ。

A「へ?」

B「だから、卵が彼女に食べられるやつでしょ」

A「た、多分ソレかも……」

――Aが困惑してるじゃねーか。

B「うーん……卵に食べられる奴は、過去分詞形を覚えるのが厄介だよね」

――今、それらしい事言ったように見えて、スゲー恐ろしい事言ったぞ!食物連鎖が劇的な逆転を遂げたぞ!

A「そうそう。過去分詞形だよねぇ~」

――いや、気づいて!突っ込めるのは君しかいないんだ!

B「でもね、良いこと教えてあげる」

A「なになに?」

B「過去分詞形が過去形と異なるのは、不規則変化動詞っていう僅かな動詞だけなの」

――あ、何か論理の展開が読めた気がする。

B「だから、大体の動詞にEDつけといたら良いわけ」

――やっぱりか!やっぱりそう来たか!

A「なるほど!……でも、過去分詞形も一応範囲に入ってるわけだし、勉強してた方が良いと思うんだけど……」

――Aが反論。頑張れ!

B「チッチッチッ、分かってないねぇ」

――いや、分かってないのお前だから。

B「だって過去形と過去分詞形が異なる動詞なんて、教科書の最後のページに一覧で載せられる程度だよ?ゾウと比較したミジンコ並みに存在感ないと思うよ?」

――謝れ。過去分詞形に謝れ。

A「そこはミカヅキモの方が良いと思うよ。ミジンコより小さいし」

――Aもそのネタに乗るのかよ!っていうか人間が肉眼で見られる限界を超越したし!

B「え?何それ?初耳なんだけど」

――どうやら知らないらしい。

A「うーん、私も詳しくは覚えてないんだけど、たしか教科書のアメーバーの隣に写真があった気がするんだけどな」

B「じゃぁアメーバーの仲間だね」

A「え?それはちが」

B「仲間だね」

A「えと、それはち」

B「仲間だね」

A「……そ、そうかもだね……」

――いや、Bよ。無理やり頷かせて何の意味があるというのか。

B「まぁ似たようなもんでしょ。プランクトンとか、ほとんどが1㎜より小さいんだし」

――謝れ。プランクトンに謝れ。

A「えっと、何でこんな話になったんだっけ?」

B「なんだったかな……あ、そうだそうだ、”5ビックリ”だね」

――戻りすぎだろ!せめて科目を合わせて”エンカウント率6:4”止まりだろ!

A「あ、違う違う。過去分詞形だよ」

――良かった。思い出してくれた。

B「あ、それそれ。えっとー、ようは過去分詞形なんてミジンコだから大丈夫ってこと」

――もはや比較対象のゾウが消えてるじゃねーか!せめてミジンコ「並」にしろよ!過去分詞形がプランクトンになるから!

A「違うって。ミカヅキモだって」

――そこに固執するのか!

B「こだわるねぇ(笑)」

A「(笑)えと、とりあえず頑張ってみるよ。少し気が楽になった気がする」

――気が楽になるのは、良いことだよな。

A「過去分詞形も、気負わずにさらっと見る程度にするよ」

――ダメだA!危険すぎる!大多数の教師は『きちんと過去分詞形も覚えてるかな~?』的な感じで、出題する問題に使われる動詞の多くを不規則変化動詞にする可能性が高い!

B「まぁ、中間だしね。そこまで気負う事は無いと思うよ」

――Bが気楽過ぎるんだろうが!


             *            *             


 その時、電車の扉が開いた。新開地に着いたようだ。全く構えていなかった俺は少しビクッとなる。なんか今日はいつもより時間が経つのが早かった気がする。

 俺は電車から降りて、乗り継ぎをするべくやや早足で歩き始めた。例のとおり扉が開くや否やのタイミングでダッシュした二人の少女の後ろ姿は、もうかなり前の方にある。

 Bの動きに合わせて、彼女のポニテがあくせくと左右に運動しているのが見えた。

[神戸電鉄車内乗客AB談! 第3話 終]