
神戸電鉄車内乗客AB談! 第4話
- Kobe Railway A&B Stories No.4 -

【これが噂のプット・オン・ウェイト】
今日もいつもと変わらず神戸電鉄の先頭車両に揺られていた俺は、強烈な睡魔と闘っていた。昔ハマっていた懐かしのカセット(ゲームボーイ)がたまたま別の用事で漁っていたダンボールの奥深くから発掘され、つい夜遅くまでやり込んでしまったのだ。
いつもの半分の睡眠時間では満足できるはずもなく、さらにゲームをやり込んでいるのだから目もかなり疲れているわけで、必死に意識して目を開けようとしていないと自然に落ちてきてしまう瞼を、懸命にショボショボさせているのが現状だ。
俺は大きなあくびを一つして、後方に立っている二人の少女の方へ意識を向けた。
「半年……か」
二人を見かけ、そしてAB談を聞くようになって、早いものでもう半年になる。いつ見かけても楽しそうに話しているAとBが今日も後ろにいる。何だかそれだけで、まぁ今日も一日頑張りましょうかね、という気になれる。自分でもよく分からないけれど。
十一月も半ばを過ぎてくると、少しずつだが『あぁ今年も終わりだなぁ』という気持ちになってくる。今年は本当に色々あった。
二月はウインターキャンプでノロウィルスの集団感染の餌食となった。学年の六分の一の人間がほぼ一斉にダウンしてたっけ?六月はABと出会った……というか遭遇したし、七月はサマーキャンプで劇のナレーションを務めたんだけど、これがまたハプニングの続だった気がする。九月は校外模試で史上最低偏差値を叩き出したっけ?
おっと、自分の世界に籠る所だった。今日もAB談で通学のひと時を過ごそうか……
* *
B「最近少しだけ太っちゃってさぁ」
A「え?そうなの?全然変わってないと思うけど?」
——いつもより若干テンションを落として口火を切ったB。うん、俺もAの意見に賛成。パッと見の雰囲気とかルックスは変わってないと思うし、どちらかというとスレンダーな感じだと思うんだけど。
B「自分的に超えたくない一線を超えてしまってねぇ……」
——Bがヘコんでるの初めて見るな。
A「大丈夫だよ、そんなに落ち込む事ないって」
B「これが、今巷で噂の『プット・オン・ウェイト』ってやつだね……」
——『太る』を英語にしただけじゃねーか。
A「へぇ、そんな流行の波があるんだ。はじめて知ったよ」
——A気づいてないし。
B「むぅ〜残念だ、非常に残念だ」
A「ダイエットとかはしすぎちゃだめだよ?」
B「それは分かってる。育ち盛りのこの時期に、過度な拒食は体に良くないよね」
——おぉ、珍しくBから正論が。
A「だよね。……でもでも、それなら痩せたい時ってどうするのが一番良いのかな?」
B「一日水だけで過ごす、肉は食べない、みたいな極端な食生活は、育てたいものの成長も止めちゃう恐れがあるからねー。胸とか、身長とか、骨とか、胸とか」
——なぜ二回言った。
A「うーん、それは困るよね」
B「バランスの取れた食事をとって、きちんと運動して、健康的な生活をしなきゃね」
——Bすごいな。普通中学生でこんな事スラスラ言う奴いないだろ。
A「そうだよね。じゃあ因みに昨日の晩御飯なんだった?」
B「マヨネごはん」
——論外だろ!
A「…………へぇ、そうなんだ」
——Aもリアクションに困ってるし!『へぇ』までの間が凄く長かったぞ!
B「ち、ちが、昨日はたまたま偏ってはいたけど、その前まではちゃんとしたもの食べてたから!」
——いや、もはや『偏る』っていう次元を超越してると思う。
A「じゃあさ、一昨日の晩御飯はなんだった?」
B「一昨日?待ってね、今思い出すから。えっと、えーっと……んと、」
A「……」
B「えっと……その、たしかねぇ……」
A「覚えてないの?」
B「……だ、だって普通は忘れるでしょ!大抵の人は思い出せないって!」
——確かに、Bの言う通りかも。
A「そうかな?」
B「じゃ、じゃあ一昨日の晩御飯なんだったか、言ってみてよ」
A「えっとねー、春巻とシュウマイと目玉焼きとポテトサラダだったかな」
——すげぇ、即答で言えてる。
B「そ、そんなの証拠無かったら本当か分かんないし!」
——小学生か、お前は。
A「本当だよ。自分で作ったから鮮明に覚えてるもん」
B「そ、そうですか……」
——B完敗。っていうか、今日は強弱が逆転してる気がするな。
B「で、でも、私だっていつかは忘れちゃってても、メニューくらいなら言えるよ!」
A「たとえば?」
B「えっと、卵かけご飯とうどん!」
——炭水化物多っ!ってか○○ご飯好きだな。
A「うーん、彩りが乏しいかもだね」
B「そ、それだったら三日くらい前に、五種類のふりかけご飯食べたもんね!たらこ、さけ、のりたま、おかか、あと名前忘れたけど緑色の奴!」
——その彩りじゃねーよ。なんかBの食生活が心配になってきたんですけど。
A「うん、頑張って!」
——もはやAスルー。
B「私の未来予想図では一週間後には一キロ減量してるはずだから」
A「あっ」
——唐突にAが声を上げた。
B「どうしたの?」
A「牛乳ってさ、よく“内容量1000ml”って書いてるよね。別に“内容量1L”でも良いじゃんって思うけど、少しでも多く見せる為にああいう表記にしてるらしいよ」
——なにをいきなり、って思ったら”一キロ”から思いついたんだな。
B「なるほど、言いたいことが分かったよ。実質一緒だけど、”一”の所を”千”にした方が多く見えるってことだよね?」
——そりゃ一が千になったら多くなるよ。Aはそんな事言いたかったんじゃないよ。
A「視覚情報って大切よね。ちょっと言い方を変えるだけで印象激変だよね」
——Aスルーかよ!『いや、千キロ減量って元々どんだけ体重あるんだよ』的なツッコミなしなのかよ!
B「ありがと、勉強になったよ」
——ぜんぜん勉強できてねーよ!正しく学べてないから!
A「ダイエットかぁ……私もした方が良いのかな?」
B「そんな!ぜんぜん大丈夫じゃん!」
A「そ、そうかな……?ま、まぁ体と相談して決める事にするよ」
B「もしするとしても、健康的な食生活は維持しなくちゃね」
——マヨネご飯に言われたくねーよ。
A「何か新しいレシピ考えてみようかな〜」
B「いっつも自分で考えてるの?すごいねっ」
A「いやいや、基本的なものをちょっと自分風にアレンジするだけだよ。一から全部自分で考えるのはちょっと無理かも……」
——それでも凄いと思うけど。
B「私はクッキーとかなら作れるけど、ちゃんとしたご飯は作れないんだよね……」
A「私は逆にお菓子系統の料理が無理かも。焼き加減とか、結構難しいよ」
B「ま、お互い精進しようね」
A「うんっ」
* *
ふと車内の電光掲示板に目を向けると、湊川を示す丸と、新開地を示す丸の間を、緑色の左矢印が点滅していた。あ、もう終点か。
扉が開く。俺が下車しようと後ろを振り返った時にはもう、ABの姿は無い。毎度思うけど、アンタら早すぎるって。
俺は本日八回目のあくびをしながら心の中でそうぼやくと、次の電車に乗り換えするべく新開地のホームに足を下ろした。
[神戸電鉄車内乗客AB談! 第4話 終]